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ドッグフード
のんびり散歩をたのしんでいると、突然うしろから
「うんまぁ〜〜〜〜〜!」と叫ぶ声がする。
続いて「でっかい犬っ!」
ギョッっとして振り向くと、おばさんがこっちに自転車で向かって来る。
そして、「噛むでしょっ!!」と言い捨てて通り過ぎた。
『誰があんたの肉なんかたべるもんか』と犬達は思った。
・・・・と思う。
外見で判断してはいけないのだ
出来れば接近遭遇なんかしたくないような、ごつくて恐そーなお兄さんがうちの犬達を見てにっこり手を出してきた。
私はびびって、うちの犬たちが吠えたりなんかしなければと心配した。
彼女たちは人間に向かってはよほどのことがない限り吠えはしない。
これはラブラドールのDNAの特質だろうかと思う。
それでも私はドキドキだった。
「こら、イヴ。甘えちゃだめだよ。こらナナ、いけない。」
などと、犬達を牽制した。
すると、お兄さんは
「おや、イヴちゃんって言うのぉ〜。
そっちはナナちゃんなんだぁ。かっわいいねぇ〜〜〜」
と撫でまわしてくれたのだった。
皮算用
娘の方の犬ナナは散歩の時にカゴをくわえていく。
初めは空のカゴだったのだけれど、通りかかる女の子達などが
「あのカゴには何を入れるんだろうか?」と呟くので、
ある日、思い立って作り物の野菜を入れてみた。
これが道行く人に大うけで、調子に乗った私は別のカゴに造花をいっぱい入れてみた。
年輩の方から小学生に至るまで男女を問わず、お声がかかるようになった。
そして、雨が降りそうな時には傘を持たせることにしたのだ。
これで、「野菜売り」、「花売り娘」、「怪しい天気には傘!」の3バージョンが決まった。
そうこうして、日がたつうちに、何人かの知り合いまで出来た。
いつもお見かけします、と言って声を掛けて下さる方さえいるようになった。
タレント犬に仕立て上げて、左団扇で暮らせまいかと私は野望をいだいている。
うちの犬のサイン入り色紙なんてどうだろうか?足跡だけだが・・・。
障害物
散歩のコースは町の大通りを行く。高千穂通りから橘通りだ。
歩道は確保されて安全だし、例え夜道でも明るいのがうれしい。
ところが、広々とした高千穂通りや橘通りの歩道に堂々と車が駐車していることがある。
「おまわりさぁぁぁん!」とでっかい声で叫びたい。
目の不自由な人にとってはお気の毒なことである。
信頼している歩道に、大きな顔をした車がふんぞり返っているなんて。
ラブラドールの飼い主は・・・?
ある時、信号待ちをしていると、年輩の男性が声を掛けてきた。
「なんて言う犬ですか?」
飼い主は、とびきりの笑顔で「盲導犬とかに使われるラブラドールって言いますの。」
すると、その男性は言った。 「あんた、目が悪いの?」
トイレ
以前、大淀川に散歩に行った時のことである。
おじさんが完璧なる弧を描いて川にオシッコをしていた。
さぞかし、本人は気持ちがいいのだろう。天然の水洗トイレなのだから。
自然も満喫できるのだろうし、"Nature calls me"と彼が思ったかどうかは解らない。
最近は犬の散歩のときにトイレの始末をしてくれる人が多くなってほっとしている。
しかし、近所の何軒かは公園に連れていって、トイレを済ませているようだ。
いくら小さい犬だからって困ったもんである。
小さい子供がお砂場遊びできないじゃないか。
ちいさな、ちいさなボランティアグループ
大淀川河川敷を散歩すると、数匹の野良犬に会うことがある。
話をするようになった河川敷近くのご婦人達の話では、転勤の季節になると
遠くから車でやって来て、棄てていくのだそうだ。
ここで散歩している犬好きの人たちは、なんとはなしにネットワークを持っていて、
その中で引き取ってくれそうな人を探しているようだ。
運命の犬
ノンちゃんはうちの母犬・イヴのいとこにあたるラブラドールである。
飼い主さんはそれはそれは彼女を大事にしていた。
陽気でやさしいノンちゃんは性格も顔もイヴに驚くほどそっくりだった。 ある日、犬の訓練所に遊びに行くと
囲いの中にノンちゃんがいるではないか。
所長さんの話によれば、飼い主さんののっぴきならぬ事情とやらで泣く泣く手放されたそうだ。
この日以来、私の心の片隅にノンちゃんがいつもいた。
諦めきったような顔、自由にならない生活・・・、私は悲しかった。
生き生きと公園を歩くノンちゃんの姿が心をよぎる。 しばらくして、所長さんの奥様にばったり出会った。
なんとはなしにノンちゃんの消息を尋ねた。
彼女は福島の裕福なお医者様の家に引き取られ、前にもまして幸せな生活を送っているとのこと。
聞けば娘さんが障害児で、ノンちゃんと同じ名前の持ち主であったそうだ。
そして、即座にノンちゃんは受け入れられた。
こうして、私は心の中のつっかえにようやくピリオドを打つことが出来たのだ。